個人事業を法人化することによるメリット、デメリット

 鎌ヶ谷市、船橋市の友田税理士事務所です。

 個人に課税される所得税は、所得が増えるとそれにつれて税率も高くなる累進課税が採用されています。そのため、個人で営んでいる事業や不動産賃貸が軌道に乗り、事業所得(不動産所得)が増えてくると、税金の負担はそれ以上に増してきます。青色申告特別控除や青色事業専従者給与などを活用した節税も可能ですが、その効果は限定的です。そこで検討することになるのが法人化(法人成り)です。

 法人化することで具体的にどのようなメリットがあるのか、主に税務上の観点から確認し、続いてデメリットについても確認していきたいと思います。

1.法人化によるメリット
2.法人化によるデメリット
3.まとめ
4.参考(所得税の速算表)

1.法人化によるメリット

<前提>
ここからは以下のような前提で話を進めます。
●法人化前の個人事業者を「事業主」と、法人化には事業主が社長になることを前提として「社長」と呼びます。
●事業主は青色申告を行っていて、家族は配偶者のみ、配偶者に専従者給与の支払いはせずに配偶者控除を受けており、それ以外の所得控除は基礎控除のみ考慮します。
●法人化後は、資本金1,000万円以下、従業員数50人以下の会社であるとします。
●所得税、個人住民税、個人事業税を一括して所得税等と、法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、地方法人特別税を一括して法人税等と呼びます。

(1)給与所得控除が受けられます

 給与所得控除とは、給与所得者の概算経費といえるもので、給与の金額に応じて一定の方法により計算され、給与収入から控除されるものです。法人化すると、社長として法人から給与を受け取ることになりますので、法人化前後で課税される税金は次のように変わります。

<法人化前>
 売上-経費=事業所得(不動産所得) …所得税等が課税

<法人化後>
 法人:売上-経費-支払給与=法人所得   …法人税等が課税
 社長:給与収入-給与所得控除額=給与所得 …所得税等が課税

 これだけではわかりにくいので、具体的な数字で確認してみます。売上げが1,500万円、経費が500万円、事業主としては65万円の青色申告特別控除を受けていたものとし、法人化後は社長に1,000万円の給与を支払うものと仮定して、法人化前後の概算の税金を比較してみましょう。

<法人化前>
 事業所得 1,500万円-500万円-65万円=935万円
 →所得税等 約259万円

<法人化後>
 法人所得 1,500万円-500万円-1,000万円=0円
  法人税等 7万円
 社長給与所得 1,000万円-220万円=780万円
  所得税等 約172万円
 →法人と社長の税額合計 約179万円

 上記のとおり、法人化することで約80万円の節税が可能です。この例では税額が減る要因は1つではないのですが、最も大きな要因は、社長に対する給与が法人の経費として計上され、さらに社長の給与所得に対して給与所得控除が適用されるためであるといえます。

 給与所得控除が受けられるようになることが、法人化による税務上のメリットとしてはもっとも重要なものといっていいと思います。 

(2)所得の分散効果が得られます

 所得税は累進課税が採用されています。そのため、所得を1人に集中させずに分散することで適用される税率が低くなりますので、節税効果が期待できます。

 (1)の具体例で法人化後に支払う給与だけを変更し、社長に760万円、配偶者に240万円支払うものとして税額を算定すると、次のようになります。

 法人所得 1,500万円-500万円-760万円-240万円=0円
  法人税等 7万円
 社長給与所得 760万円-196万円=約564万円
  社長所得税等 約117万円
 配偶者給与所得 240万円-90万円=150万円
  配偶者所得税等 約17万円
 →法人、社長、配偶者の税額合計 約141万円

 (1)の給与所得控除とこの所得の分散を併用すると、個人事業者の時の税金(259万円)と比較して約118万円の節税、法人化後に社長1人のみに給与を支払う場合(179万円)と比較しても約38万円の節税となります。

 個人事業者も青色事業専従者給与として事業専従者に給与を支払うことはできますが、年齢や勤務期間の制限があったり、給与の限度額を事前に税務署に届けておかなければならないなどの制約があります。法人化すれば、このような制約を受けることなく、給与の支払いについての自由度がかなり高くなります。

(3)給与を支払っても配偶者控除、扶養控除を受けられます

 (2)と関連しますが、個人事業者でも配偶者など同一生計の親族に青色事業専従者給与を支払うことはできます。しかし、専従者給与の支払いを受ける人は、事業主の配偶者控除、扶養控除の対象とすることができなくなってしまいます。

 それに対して法人であれば、配偶者などに支払う給与の金額を103万円以下とすることで、社長の配偶者控除、扶養控除の対象とすることができます。

(4)退職金の支払いを受けることができます

 退職金は老後の生活保障という側面があるため、税務上かなり優遇されています。仮に同じ3,000万円の支払いを受けるとすると、給与の場合には所得税等は約1,104万円となりますが、退職金(勤続30年と仮定)の場合には所得税等は186万円ですみます。

 個人事業の場合には、自分で自分に退職金を支払うことは税務上認められず、退職金についての優遇を受けることができません。事業専従者についても同様です。

 法人化すれば、会社から社長や家族に対して退職金を支払うことができ、支払う退職金は法人の経費として計上することができます。退職金原資を確保するため、税務上、支払保険料の経費計上が認められる生命保険を利用することでさらに節税効果を高めることができます。

※個人事業においても小規模企業共済制度や中小企業退職共済制度を利用することで、所得控除や退職金の優遇を利用することは可能ですが、法人に比べると自由度は低くなります。

(5)生命保険料の経費計上が認められます

 個人事業者の場合、どれだけ生命保険料を支払っても、最高で12万円の所得控除(生命保険料控除)が認められるだけです。

 法人であれば一定の条件を満した場合には、支払った保険料の全額(または1/2か1/4)が法人の経費として認められます。支払保険料が少額であればあまり気にする必要はありませんが、保険料が多額になればなるほど個人事業と法人での差は大きくなります。(4)の退職金の優遇とあわせて計画的に利用することで、相乗効果が得られます。また、不動産賃貸業を営んでいる方でしたら、将来の大規模修繕への備えとして活用することもできます。

(6)法人化後、最長で2年間消費税の納税義務が免除されます

 消費税の納税義務の有無は、前々事業年度の課税売上高が1,000万円を超えるか否かで判定され、前々事業年度の課税売上高が1,000万円を超えていれば納税義務ありとされます。新規に法人をする場合、設立1期目と2期目には、この納税義務を判定するための前々事業年度の売上高がありませんので、原則として消費税の納税義務は免除されます(資本金1,000万円以下の場合に限られます)。つまり、最長で2年間、消費税を納付しなくてよいことになるのです。

 ただし、平成25年以後は、前事業年度の上半期6か月の課税売上高が1,000万円を超え、かつ、給与等の支払額が1,000万円を超える場合には、納税義務は免除されないこととされました。つまり、1期目の上半期の課税売上高が1,000万円超、かつ、給与等の支払額が1,000万円超の場合には、2期目には消費税を納めなければならないこととなりますので注意が必要です。

(7)決算期の変更が可能です

 個人事業者の所得税等の計算期間は1月1日から12月31日で、変更することは出来ません。

 法人税等の計算期間は事業年度になりますが、事業年度は自由に変更することができます。事業年度は定款に記載されておりますので、事業年度を変更するには定款を変更することになります。定款の変更は株主総会の特別決議が必要になりますので、発行済株式総数の過半数にあたる株式を有する株主が出席して臨時株主総会を開催し、その議決権の3分の2以上の賛成が必要となります。小規模法人の多くは経営者=株主だと思いますので、事業年度の変更自体は事業年度変更の株主総会議事録を作成するだけで完了します。なお、事業年度は登記事項ではありませんので、法務局での変更登記は必要ありません。
 事業年度の変更をしたら、忘れずに税務署や県税事務所、市区町村役場に異動届を提出しましょう。

 では事業年度の変更が自由にできることでどのようなメリットがあるのでしょうか。古くから保有していた不動産を売却したりして臨時的に多額の利益が生じるような場合、それが事業年度が始まったばかりの時期であれば、税金対策を講じる時間的余裕がありますが、これが事業年度の終了間際だと十分な対策ができず、多額の税金を負担することになりかねません。そのような場合には、事業年度を変更して多額の利益が生じる前に事業年度を終了させてしまえば、翌事業年度に余裕をもって税金対策を講じることができるようになります。

(8)相続税対策につながります

 これは不動産を多く保有し、ある程度の規模で不動産賃貸を営んでいる方が、主に当てはまると思います。

 個人事業のままだと所得が事業主に集中しがちになります。不動産を多く保有している方は相続税の課税対象となるケースが多く、そのような方に所得が集中するということは、相続税が課税される財産がどんどん蓄積されることにつながります。法人化すれば、会社に所得を分散することができるようになり、相続税の課税対象となる財産の蓄積を抑制することができます。さらに会社から子や孫に給与として支払うことで所得の分散効果が高くなり、子や孫はその給与を現預金でプールしておくことで、相続税の納税資金にあてることができます。
 会社に所得を分散すると、今度は会社の財産が増えるので会社の評価額、すなわち株価が高くなります。社長が株を保有していれば、相続財産が増えことになります。これを避けるため、法人化したばかりの株価の低いうちに子や孫に株を贈与する、あるいは、最初から子や孫が株主になって法人化することなども検討しておくことになるでしょう。

 土地を会社に賃貸し、会社が建物を保有する場合、通常は借地権が発生しないよう「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出します。これにより、相続の際には土地の評価額について20%の評価減を受けることができます。また、この土地については、「小規模宅地等の特例」による評価減(200平米まで50%減)の適用対象となります。

 

(9)その他

 (1)~(7)に挙げた以外にも、欠損金の繰越期間が長くなる、役員社宅を経費計上できる、所得税は累進税率だけど法人税は比例税率であるなど、メリットは多々あります。また、税務上のメリット以外にも、法人のほうが社会的信用を得やすい、事業承継がしやすいなどのメリットもあります。

2.法人化によるデメリット

 1.では法人化のメリットを列挙しましたが、法人化には多少のデメリットもあります。「こんなはずじゃなかった!」ということにならないよう、デメリットも確認しておきましょう。

(1)事務負担が増える

 個人事業でも法人でも記帳、申告は必要です。記帳に関しては、個人で問題なく貸借対照表まで作成して65万円の青色申告特別控除を受けていたのなら、法人化してもさほど変わらない思います。しかし、申告書の作成、提出となると、法人の場合には個人の場合よりも提出書類も増え、内容も専門性が高くなり、複雑かつ難解になります。

 通常は、会計処理から申告書の作成、提出までを専門家である税理士に依頼することになると思います。そうなれば、事業主自身ないしは家族が記帳、申告までしていた方の場合には、新たな費用が生じることになります。個人事業主の方にも記帳、申告を税理士に依頼しているケースもあると思いますが、一般的に個人事業よりも法人の方が報酬は高いので、出費が増えることになります。

(2)赤字でも納めなければならない税金があります

 個人事業の場合、事業所得が赤字であれば事業に対しては課税される税金はありません。

 法人の場合は、赤字であっても法人住民税の均等割(最低7万円/年)がかならず課税されます。個人にも住民税の均等割はありますが、個人(5,000円/年)よりも税額は高くなります。

(3)法人設立費用が必要になります

  会社を設立するには登記が必要です。設立する会社の種類によりますが、登録免許税などの法定費用に10~30万円程度かかります。設立手続を専門家に依頼すれば、さらに報酬が発生します。また、法人の実印、銀行印やゴム印、名刺、封筒などを作り直さなければなりませんので、そのための費用が必要になります。

 ただし、これらの費用は原則として設立時の1回きりなので、さほど気にならないと思います。

(4)健康保険、厚生年金の加入義務が発生します

 労働保険(雇用保険、労災保険)は、個人事業でも法人でも従業員を雇用すれば加入義務があるため、個人と法人での差はありません。

 一方、厚生年金や健康保険は、個人と法人で取扱いが異なります。個人事業であれば雇用する従業員が4人以下の場合には原則として加入義務はなく、任意加入となりますが、法人の場合には従業員数を問わず(社長1人でも)強制加入となります。

 厚生年金と健康保険の保険料は、労使折半で負担することとされています。したがって、従業員を雇用していて社会保険に加入していなかった事業主が法人化すると従業員の数を問わず社会保険料についての負担が増えることになります。
 この負担を嫌って、社会保険の加入義務があるにもかかわらず、未加入である小規模事業者が多いのが現状です。しかし、社会保険未加入の問題が社会問題となっており、日本年金機構は未加入対策を強化しています。マイナンバー制度の導入もその一環とされています。未加入が判明した場合には、最長2年間分の保険料を追徴される可能性があり、法的な罰則も定められています。

 社会保険は自営業者などが加入する国民年金や国民健康保険より保険料が高いものの、それ以上に充実した保障が受けられます。費用負担が増えるという側面だけを見ればデメリットですが、会社のために働いてくれている従業員のための福利厚生と捉えれば、あながちデメリットともいえないのではないでしょうか。

3.まとめ

 個人事業を法人化した場合の主なメリット、デメリットを確認しましたが、事業が軌道に乗って所得が増えてきたら、多少のデメリットがあったとしても、税務上のメリットがかなり大きいことがお分かりいただけると思います。現在の所得についての節税だけでなく、将来的な相続税対策につなげることも可能なのです。

 ただし、法人化にあたっては、現実の数字に基づいてしっかりと試算を行ってください。法人化のメリットは節税だけではありませんが、節税が大きなウエイトを占めることは間違いなく、個人事業を法人化する方の多くは節税を目的としているはずです。安易に法人化して手間と費用だけかかって、逆に税金が増えてしまったというのでは目も当てられません。法人化するか否かは、しっかりとした試算に基づいて、慎重な判断をしてください。

4.参考(所得税の速算表)

課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円超 330万円以下 10% 97,500円
330万円超 695万円以下 20% 427,500円
695万円超 900万円以下 23% 636,000円
900万円超 1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円超 4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

法人に課税される税金、実効税率についてはこちらを参考にしてください。
法人に対して課税される税金と法人実効税率

 

※上記内容は、執筆時の法令に基づいています。

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