鎌ケ谷市、船橋市の友田税理士事務所です。
個人が資産を売却して譲渡益が出たときは、譲渡所得として確定申告をしなければなりません。売却した資産が不動産である場合には、分離譲渡所得として所得税および住民税が課税されます。
この分離譲渡所得に対して課税される税金について、具体的に確認してみましょう。
1.分離譲渡所得とは
2.分離譲渡所得金額の計算方法
3.税額の計算方法
4.売却損が出た場合
5.まとめ
1.分離譲渡所得とは
給与所得や事業所得、不動産所得などは、これらの所得金額を合計して税額を計算する「総合課税」の対象となります。一方、土地等、建物等を売却した場合の所得は、 総合所得と分離して税額を計算する「分離課税」とされ、分離譲渡所得となります(不動産や有価証券等以外の資産を売却した場合には、総合課税とされ、総合譲渡所得となります)(所法33、措法31、32)。
売却した不動産が事業所得や不動産所得の生ずる業務に使用されてたものであっても、事業所得や不動産所得ではなく、分離譲渡所得として計算しなければならないので、注意が必要です。
この分離譲渡所得に対しては、総合所得とは異なる税率が適用されます。次に具体的な税額の計算方法を確認してみましょう。
2.分離譲渡所得金額の計算方法
分離譲渡所得金額は、次の算式で計算します。
分離譲渡所得金額=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
それでは、算式の内容を確認してみましょう。
(1)譲渡価額
不動産の売却価額です。固定資産税・都市計画税の精算金を受け取る場合には、その金額を加算します。
(2)取得費
<取得費が分かる場合>
取得費は、①購入代金、②契約書の印紙代、③仲介手数料、④登記手数料、⑤登録免許税、⑥不動産取得税などの合計額です。購入後に土地を造成したり、建物にリフォームなどを行ったりした場合には、それらの費用も取得費に含めることができます。売買契約書など購入時の資料から調べましょう。
ただし、建物の取得費は、購入代金やリフォーム費用から償却費相当額を差し引いた金額となります(所法38)。
◆償却費相当額
①業務用建物の場合
取得価額-減価償却累計額
②非業務用建物の場合
取得価額×0.9×償却率×経過年数
区分 | 木造 | 木骨 モルタル |
(鉄筋)鉄骨 コンクリート |
金属造① | 金属造② |
償却率 | 0.031 | 0.034 | 0.015 | 0.035 | 0.025 |
金属造①:軽量鉄骨造のうち骨格材の肉厚が3mm以下の建物
金属造②:軽量鉄骨造のうち骨格材の肉厚が3mm超4mm以下の建物
経過年数:端数がある場合、6カ月以上は1年とし、6ヶ月未満は切捨て
<取得費が分からない場合>
購入時の売買契約書などがなく取得費が不明の場合には、概算取得費として売却価額の5%を取得費とすることもできます(措法31の4)。
なお、取得費がわかっていて売却価額の5%未満である場合にも、概算取得費を使って計算することが認められています。取得費が5%未満の場合には、実際の取得費を使うよりも概算取得費によって計算した方が税額を抑えることができます。
取得費が分からないけど、売却価額の5%よりも明らかに高いと思われる場合には、購入時期さえ分かっていれば、他の方法により取得費を算定することが認められる場合があります。そのような場合には、専門家に相談してみるといいでしょう。
<相続などにより取得した場合>
①取得価額、取得時期の引継ぎ
売却した不動産が相続、贈与などにより取得したものである場合には、被相続人、贈与者などの取得価額、取得時期を引き継いで、上記の方法により取得費を算定します(所法60)。
②相続税額の取得費加算の特例
相続等により取得した資産を相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却した場合には、納付した相続税額のうち売却した資産に対応する金額を取得費に加算することができます(措法39)。
(3)譲渡費用
売却時の費用である、①仲介手数料、②契約書の印紙代などの合計額です。土地の売却にあたって必要となった分筆費用、測量費用や建物取壊し費用、建物を売却するために賃借人を立ち退かせた場合の立退料なども譲渡費用となります。
(4)特別控除
分離譲渡所得には、種々の特例がありますが、一定の要件に該当する場合に特別控除を受けることができるものとして、次のものがあります。
種 類 | 控除額 |
居住用財産を譲渡した場合の特別控除の特例 | 3,000万円 |
収用等により譲渡した場合の特別控除の特例 | 5,000万円 |
特定土地区画整理事業のために譲渡した場合の 特別控除の特例 |
3,000万円 |
特定住宅地造成事業のために譲渡した場合の 特別控除の特例 |
1,500万円 |
農地保有の合理化のために譲渡した場合の 特別控除の特例 |
800万円 |
平成21年及び平成22年に取得した国内にある土地を 譲渡した場合の特別控除の特例 |
1,000万円 |
3.税額の計算方法
<所有期間による区分>
分離譲渡所得は、不動産の所有期間によって、次のように区分されます(措法31、32)。
分離長期譲渡所得 | 売却した年の1月1日時点で所有期間が5年超 |
分離短期譲渡所得 | 売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下 |
<適用される税率>
分離譲渡所得に適用される税額は、長期、短期の別によって異なり、適用される税率は次のとおりです。
区 分 | 所得税 | 住民税 | 合計 |
分離長期譲渡所得 | 15.315% | 5% | 20.315% |
分離短期譲渡所得 | 30.63% | 9% | 39.63% |
所有期間10年以上である居住用財産を譲渡した場合や優良住宅地の造成等のために譲渡した場合などで、一定の要件を満たす場合には軽減税率の特例があります。
4.売却損が出た場合
不動産を売却した場合には、売却損が出る可能性もあります。分離譲渡所得の損失は、原則として他の所得の黒字と相殺(損益通算)することができません。したがって、その損失は切り捨てになり、譲渡所得は生じませんので確定申告をする必要はありません。だからといって、「余計な手間がかからくてよかった」と思う前に、次の2点を検討してみましょう。
(1)含み益のある不動産で売却可能なものはないか
分離譲渡所得の損失は、原則として他の所得とは損益通算できませんが、同じ分離譲渡所得同士でなら損益通算が可能です。そのため、他に含み益のある不動産で、売却してしまいたい、あるいは、売却しても構わないものがあるようなら、同じ年に売却してしまうことを検討しましょう。損失を切り捨ててしまうことなく、売却損と売却益を相殺することが可能となります。
(2)居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除が適用できないか
不動産の売却損が生じた場合、売却した不動産が一定の要件を満たす居住用不動産である場合には、給与所得や事業所得など、他の所得と損益通算が可能で、その年に他の所得と相殺しきれなかった損失は翌年以降3年間にわたって繰り越すことができるという特例があります。
この特例については、「自宅の売却損の一部を税金で取り戻せる場合」に記載していますので、ご参照ください。
5.まとめ
不動産を売却して売却益が出る場合には、分離譲渡所得に対して所得税、住民税が課税されます。特に売却するのが古くから保有している不動産である場合には、多額の税金が生じることもあります。なんらかの目的があって、資金作りのために不動産を売却するような場合には、納税資金を確保しておくことも忘れないよう気をつけましょう。
分離譲渡所得には、ここでご紹介したもの以外にも種々の特例(優遇規定)があります。4.(2)でご紹介したとおり、売却損が出る場合に適用できる特例もあり、不動産の売却損をある程度取り戻すことも可能です。不動産の売買では動く金額が大きいことから、売買のタイミング等により税額に大きな差が出る可能性があるので、慎重な判断が必要です。
※上記内容は、執筆時の法令に基づいています。
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